恋は天使の寝息のあとに
ほろりと片頬を涙が伝って、思わずしゃがみ込んだ私を見て、恭弥がげんなりと肩を落とした。

「また、お前はすぐ泣いて……」

仕方なく、本当にうんざりとした顔で、私の前までやってきて、膝をついてしゃがみ込む。

私が両手で大切に抱えていた小さな箱を、恭弥は乱暴に奪い取った。
中の台座からそれを抜き取り、私の左手を持ち上げると、薬指にするりと滑らせる。

小さなダイヤが、私の指でキラリと輝く。


「沙菜」

その顔を少しだけ不安そうに歪ませて、恭弥が覗き込んできた。

「俺と結婚して欲しい」

薄茶色の双眸が、真っ直ぐに私を捕らえた。


『結婚して欲しい』? 『結婚しろ』の間違いじゃないの?
いつも強引に命令するくせに、こんなときだけ同意を求めるなんて。
『いいえ』なんて、言うわけがないのに。


落ち着かない顔で答えを待っている恭弥に、私はこくりと頷いてみせた。
恭弥がうつむいて、ふっと笑みを溢す。
安心したような、照れくさいような、そんな微笑み。


朝の日差しに包まれて、ふんわりとした白いベールに覆われた彼は、物語の中に出てくる王子様みたいに見えた。

瞳がすっと細くなって、大切なものを慈しむように私を見つめる。
いつもこんな瞳をしていてくれたなら、彼のことがよく分からないなんて見失うこともなかっただろうに。


彼が私の頬に手をかけて、ゆっくりと唇を寄せる。

やがて柔らかな感触とともに、彼の吐息が私の身体の中に流れ込んできた。

時間が、不思議なくらいゆっくりと穏やかに流れていく。
鼓動の音が、秒針みたいに、とくっ、とくっと静かな時を刻む。
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