恋は天使の寝息のあとに
私が台所で紅茶を入れている間、心菜と利哉くんは相変わらず走り回っていた。
リビングの大きなソファの上でばふんばふんと飛び跳ねたあと、廊下へ飛び出して端から端まで走り、戻ってきてはカーペットの上でごろんごろん。
心菜もそのあとをヨタヨタと付いて回っては、きゃっきゃっと笑っている。
由利亜さんが二人の後を追いかけて、おイタをしないか見守っていてくれた。

台所に侵入してきた利哉くんを、こっちは危ないよと由利亜さんがリビングへ連れ帰る。
途中、ダイニングテーブルに目をやった彼女が不思議そうに呟いた。

「この財布って、沙菜ちゃんのじゃないよねぇ……?」
「うん、兄の忘れ物」
「どうりで。渋すぎると思った」

お盆にお茶菓子と紅茶を載せて運ぶ私に、由利亜さんは興奮気味にまくし立てる。

「昨日びっくりしちゃったわよ。
お兄さんのこと、だらしがなくて無愛想で不細工で不器用でとか散々言ってたのに。
どんな人かと思ったら、ものすごく格好良いんだもん」

はて、だらしがなくて無愛想とは言った覚えがあるけれど、不細工で不器用だなんて言っただろうか。
なにやら尾ひれがたくさんついている気がする。

「私も、思ったよりもちゃんとした格好できてくれたから、びっくりしちゃった」
「羨ましいなー、あんな素敵なお兄さんがいて。土日もよく手伝いに来てくれるんでしょう」

私はうん、と頷きながら、なんだか嬉しい気持ちを噛み締める。
褒められているのは恭弥なのに、何故だか誇らしい気分になる。

「でもさ、お兄さん、沙菜ちゃんとあんまり似てないね」
「ああ、血は繋がってないから」
「え!? そうなの!?」

由利亜さんは何故だか知らないけれど嬉しそうに頬を上げて、身を乗り出した。
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