恋は天使の寝息のあとに
届けてあげたいのはやまやまだが、そうホイホイと出かける訳にもいかない。
何しろ、心菜がいる。
出かけるとなれば、それなりに準備が必要だし、彼女を連れて電車に乗るのは、そこそこに骨が折れる。
フットワークの軽かった独身時代とはもう違うのだ。

「……まぁ、そのうち、取りにくると思うよ」
「でも、今日用事あるって言ってたでしょう? 来たくても来れないかも」
「うーん、そうだねぇ……」

断るうまい理由が見つからず、私は曖昧に返した。
そもそも彼女がどうしてそんなにも恭弥の元へ財布を届けたがっているのか、それすらもよく分からない。

やがて由利亜さんは良いことを思い付いたかのように、パンっと手を叩いた。

「よし、みんなで財布を届けに行こうか」
「みんなで!?」
「もちろん! 私ももう一度イケメンお兄さんに挨拶したいし」
「イケメンって――そんな理由!?」

由利亜さんは行く気満々で、そわそわと準備を始めた。
メイクだいじょうぶかしら、なんて言いながら手鏡を覗き込んでいる。
こんな姿を彼女の旦那さんが見たらショックを受けるのではないだろうか。

彼女はすごく期待をしているようだが、きっと今日の恭弥はオフモードだ。
くたくたジーンズとパーカー姿を見て、がっかりしないことを祈った。

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