恋は天使の寝息のあとに
私がとぼとぼとマンションを出ると、そこにはベビーカーふたつに身動きをとれなくした由利亜さんが待っていた。

「どうだったの?」
「やっぱり恭弥だった……」
「そう……」

私の暗い声を受けて、彼女はどうしたらいいのか分からないというような表情を浮かべる。

「で、財布は渡せたの?」

彼女の問いに私はふるふると首を横に振った。

「渡してないの?」
「……うん」
「何で?」
「……だって、気まずいじゃん」
「一体何が気まずいの?」
「何がって……」


何がだろう。

よくよく考えてみれば、私はただの妹であって、兄のデート現場に遭遇したからといって、何の遠慮をする必要もないのだが。
堂々と二人の前に姿を見せて、お財布を渡してくればよかったものを。
どうして隠れたりなんかしちゃったんだろう。

兄に恋人の一人や二人、いようがいまいが関係のないことだ。


それなのに、なんだかいけないものを見てしまったかのような、後ろめたさ。
ずんと心が沈む。

出来ることなら、知りたくなかった。
恭弥が、別の誰かを大切にしているところなんて……


ベビーカーの中の心菜は、何も分からずキョトンとしている。

――心菜、恭弥パパが奪われちゃったよ――

そう心の中で呼びかけて、自分の感情が独占欲であることに気がついた。

恭弥は心菜のパパ代わりだから、誰にも捕られたくないなんて感じるのかな……?

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