恋は天使の寝息のあとに
仕方なく、私たちは元来た道を引き返した。
恭弥の財布は未だ私の手元にある。
そのうち自分で取りに戻って来るだろうと期待して、渡すことを諦めた。

地元の駅に着いたところで、近くの公園で寄り道し、心菜と利哉くんを遊ばせてやった。
狭くて堅苦しいベビーカーから解放されて、二人は元気に公園を走り回る。


「ねぇ、沙菜ちゃん、だいじょうぶ?」
遊ぶ二人に視線を向けたまま、由利亜さんが私に尋ねてきた。

「何のこと?」
「お兄さんのこと、ショックだったんじゃないかと思って」
「そんな、ショックだなんて……」

軽く笑い飛ばしてみるものの、正直、手放しに大丈夫とは言えない心境だった。

このまま恭弥があの女性と結婚したら? 子どもができたら?
そしたらもう、今までのように私たちのそばにはいられないだろう。
そんな日がきたら、私と心菜はどうしたらいい?

勝手ながら、私と心菜の頭の中では、恭弥はパパになっていて
置いてきぼりにされた気持ちを、どう処理すればいいのだろうかと。

十分に予想していたことなのに、いざ目の前に突きつけられると、どうしようもなく心が沈んだ。

「沙菜ちゃん、無理してる?」

隠しきれない動揺を見抜かれて、私は言い訳せざるを得ない状況になってしまった。

「……心菜にとって恭弥はお父さん代わりだから。
お父さんが他の誰かに取られちゃうのは、悲しいなって……」

言葉が尻つぼみになっていく。
じわじわと湧き上がる嫉妬心。
恭弥が私たちだけのパパだったらなんて、そんな我が侭なことを考えてしまう。
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