正しい紳士の愛し方
こんなかしこまった場所で二人きり。
樹には彼とどんな会話をするのが相応しいのかまるで分からなかった。
同僚たちと普段行っている居酒屋やファミレスとは違う。
「緊張してる?」
その問いに樹は「ちょっと……」と答える。
本当はちょっとじゃないんだけど……。
「フォークとナイフの作法とか正直あまり知らないし……」
樹は目の前に広がった食事の準備に苦笑する。
まだ二十代そこそこの年齢。
結婚している友人もまだ少なく、親戚のものも入れても披露宴に参加したのは片方の手で数えられるほどかった。
「作法なんて気にすることないよ。どうせ俺しかいないんだし」
「うん……」
頷きながらも、樹の不安は一向に解消されない。
“俺しかいない”
だから困るんだ。
世界で一番カッコ悪いところを見られたくない人なのだから。