白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「柚菜、ここを出るぞ」
早口でそう言って懐紙を取りだし白鷺一翔を拭くと、以蔵さんは眼を見開いた。
「な、んで」
思わず私は手で口をおおった。
懐紙に血がついてない。
行灯のあかりで白鷺一翔を見つめるも、一滴の血すら付いてはいなかった。
「……以蔵さん……!」
その途端、白鷺一翔が青白く光った。
「以蔵さん、白鷺一翔が……」
以蔵さんは白鷺一翔を鞘に納めると、私の手を引いた。
「行くぞ。ここはもうダメだ」
このときの私は、まるでテレビの時代劇の中に入り込んでしまった気分で、目の前で人が死んだという事実が信じられず、ただ以蔵さんについていくしかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「そろそろ行くぞ」
「……うん」
薄い板の壁の隙間から夕陽が糸のように差し込み、私はゆっくりと身を起こした。
今日は何日なんだろう。
確か、私が大阪に来た日、女将さんは七月の末だと言った。
仮にあの日が三十日だったとしたら、今日は八月一日だということになる。
昨日は、襲ってきた二人組を以蔵さんが斬って、私達は逃げた。
夜通し歩き回り、朝方に漸く空き家を見つけてそのまま眠ったのだ。
「飯を食いに行くぞ」
以蔵さんはそう言うと、帯を締め直して腰に刀を差し、私を斜めから見下ろした。
「……うん……」
早口でそう言って懐紙を取りだし白鷺一翔を拭くと、以蔵さんは眼を見開いた。
「な、んで」
思わず私は手で口をおおった。
懐紙に血がついてない。
行灯のあかりで白鷺一翔を見つめるも、一滴の血すら付いてはいなかった。
「……以蔵さん……!」
その途端、白鷺一翔が青白く光った。
「以蔵さん、白鷺一翔が……」
以蔵さんは白鷺一翔を鞘に納めると、私の手を引いた。
「行くぞ。ここはもうダメだ」
このときの私は、まるでテレビの時代劇の中に入り込んでしまった気分で、目の前で人が死んだという事実が信じられず、ただ以蔵さんについていくしかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「そろそろ行くぞ」
「……うん」
薄い板の壁の隙間から夕陽が糸のように差し込み、私はゆっくりと身を起こした。
今日は何日なんだろう。
確か、私が大阪に来た日、女将さんは七月の末だと言った。
仮にあの日が三十日だったとしたら、今日は八月一日だということになる。
昨日は、襲ってきた二人組を以蔵さんが斬って、私達は逃げた。
夜通し歩き回り、朝方に漸く空き家を見つけてそのまま眠ったのだ。
「飯を食いに行くぞ」
以蔵さんはそう言うと、帯を締め直して腰に刀を差し、私を斜めから見下ろした。
「……うん……」