鬼常務の獲物は私!?



重役の誰かが下りてきたのかと思い道を開けようとしたが、「福原さん」と聞きなれた声で呼ばれた。

見上げると、重役ではなく高山さん。

彼は私に微笑みかけてから比嘉さんの前に立ち、「こちらも総務までお願いします」と言って、手にしている一枚の用紙を渡していた。


いつもの事務的なスマイルを浮かべる高山さんには、なんら変わったところはない。

それなのに、なぜか比嘉さんの目が泳ぎ、うろたえているように見えた。

それを不思議に思っていると、彼女は高山さんから目を逸らしたまま「すみません」と謝っていた。


「分かっているのなら注意の必要はないと思いますが、福原さんは分かっていないようなので、説明だけさせてもらいます」


そうしてもらえると、ありがたい。
比嘉さんがなにについて謝ったのか、さっぱり分からないから。

総務に提出すべきその用紙を忘れたせいかと思ったけれど、それくらいで目を泳がせたりしない気もする。

私と違って優秀な彼女が、一体なにをしたというのだろう。

首を右に左に傾げつつ説明を待つ私に、高山さんは目を細めて笑った。


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