鬼常務の獲物は私!?
廊下の左側へ進もうと体の向きを変えた際に、踊り場から私を見送る、ふたりの姿を横目に捕らえた。
高山さんはにこやかだけれど、比嘉さんは下唇を噛み締め、眼鏡の奥の瞳は憎らしげに私を睨み……目障りだという彼女の心の呟きが聞こえてきそうな気がした……。
常務室のドアをノックすると、すぐに中から開けられ、腕を取られて引っ張り込まれた。
眉間にシワを寄せた常務に開口一番「遅い」と叱られてしまう。
立ち話に数分の時間を取られてしまったので、呼ばれてから着くまでの時間が、いつもの倍近くかかってしまった。
「ごめんなさい」と小さな声で謝る私を見て、常務はすぐに表情の厳しさを解いた。
「どうした? なんだか元気がないな。
遅いとは思ったが、怒ってはいないぞ?」
しょげているのは、踊り場から私を睨み上げる比嘉さんに気づいてしまったせいだ。
おっちょこちょいでミスばかりの私だけれど、周囲の人たちは大抵、仕方ないなと温かな目で見て許してくれた。
そうやって小さな頃からぬるま湯で育った私は、怒られることに耐性がないのかもしれない。
ましてや人に憎まれた経験なんてないから、どうしていいのか分からなくて、笑顔を作ることができなくなってしまう。