鬼常務の獲物は私!?



「怒っていないと言っているだろう。
頼む、そんな顔しないでくれ」


「え? あ、あの、違うんです。
常務に怒られたからじゃなくて、ええと……」


比嘉さんのことを言えば、告げ口になってしまいそうなので、口に出すのをためらった。

すると常務の手が伸びてきて、前髪を横に流される。

その直後に整いまくった綺麗な顔が近づいてくるから、キスされるんじゃないかと慌ててしまい、ぎゅっと目を瞑って身構えた。

しかし唇にはなにも当たらず、額になにかがコツンとぶつかっただけ。

そっと目を開けると、ぼやけて見えないほどの至近距離に常務の瞳があり、額と額がくっついているのだと知った。

たちまち速度を上げる鼓動に苦しくなって、ベストの胸もとをぎゅっと握りしめたら、「熱はないようだな」と言われ、額はすぐに離された。


「風邪でも引いたか? 熱はないと思うが、顔が赤い。具合が悪いのなら早退してもいいんだぞ」


顔が赤いのは常務が接近してきたせいで、体調不良でもないが、それを説明できずに困るばかりだ。


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