鬼常務の獲物は私!?



その夜。食事も入浴も済ませ、パジャマ姿でベッドに座り、ぼんやりとテレビを観ていた。

でも、番組内容はちっとも頭に入ってこない。
観ているというよりは、つけているだけといった方がいいかもしれない。

右手には猫じゃらし。
釣竿の糸の先に蝶々のおもちゃが付いていて、太郎くんが飛び跳ねながら、元気いっぱいにじゃれていた。


いつもなら、こんなひと時が私の最も幸せな時間であるはずなのに、口から漏れるのは溜息だけ。

神永常務の顔が頭から消えてくれないし、今日、常務室を出る時に聞いた彼の深い溜息が、耳にこびりついて離れてくれないのだ。

幸せな時間を楽しめなくて、とうとう私は猫じゃらしを置き、テレビも消してしまった。

ベッドに仰向けに寝転んで日に焼けた古い天井を眺め、「好きになりたくないのに……」と独り言を呟いていた。


そのまま静かな時間が流れる。

ふと気づくと枕もとに、さっきまではなかった何かが置かれていた。

それはネズミとトカゲのぬいぐるみで、ふたつとも太郎くんのお気に入りのおもちゃだ。


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