鬼常務の獲物は私!?
【ご心配をかけて申し訳ありません。ご飯も食べて元気です。明日は普通に出社します】
すぐに返事が返ってきた。
よかったと安堵する文面の最後に、またおかしな文章が……。
【太郎がそこにいるのは腹立たしいが、こういう時にひとりじゃないのは安心かもな。いいか、雑用は太郎にやらせてお前は寝てろよ】
どういう意味だろうと3回読み返したが、分からなかった。
常務のいう雑用とは、どんなこと?
さっきみたいに、おもちゃやキャットフードを持ってきてくれることだろうか?
まさか太郎くんに、食器洗いや洗濯をさせろと、無茶なことを考えているんじゃ……。
それともツッコミを期待しているとか?
神永常務が芸人みたいな冗談を言うとは思えないのだけれど……。
「うーん」と考え込んでいたら、続けてもう一通のメールが届いた。
それは明日から一週間の海外出張を知らせる内容で、【しばらく会えない】との文章にがっかりしてしまった。
それと同時に心に不安の影も広がりだす。
【比嘉さんも一緒ですか?】と聞いてみると、
【高山と小百合、俺の3人だ】という返事が返ってきてしまう。
比嘉さんも一緒に行くんだ……。
【気をつけて行って来てください】と返信した後には、もうスマホは鳴らなかった。
ベッドに倒れこみ、スマホを手放して大きく息を吐き出す。
せっかく太郎くんが癒してくれたのに、心の中にまた黒い霧のようなモヤモヤが広がってしまった。
比嘉さんはもしかして……。
彼女の睨む視線を思い浮かべ、私を常務から遠ざけたいような言動を思い出し、もしかしてと感じることがあった。
比嘉さんは、神永常務のことが好きなのだろうか……。
そうだとするなら、憎まれていることにも納得できる。好きな人が他の女性と一緒にいるのは、嫌だよね……。
明日から一週間も比嘉さんは常務と一緒で、私は顔を見ることもできない。
それは仕方ない。
私は鈍臭いただの事務員で、優秀な秘書の比嘉さんのように、仕事の役に立つことはできないのだから……。