鬼常務の獲物は私!?
ドアが閉められ、狭い給湯室の中はぎゅうぎゅうになる。
私の他は事業部の女子4人で、皆んな一様に困り顔で目配せし合っていたが、宇野さんが溜息をついて、優しい声で私に言った。
「福原さんに聞かせるつもりはなくて……ごめんね。ちゃんと説明した方がいいかな?」
怖いけれど、ここまで聞いてやめる訳にはいかず、震える唇で「お願いします」と口にした。
宇野さんが言い難そうに教えてくれたのはこんな話。
それは昨日のこと。社長と事業部の部長が会話しながら会議室から出でくるところに、たまたま宇野さんが出くわした。
ふたりは和やかな雰囲気で、事業部の部長が社長にこんな話題を振っていた。
『神永常務もそろそろ、身を固めるお年頃でしょうか?』
それに対して社長は、そのつもりで遠縁の若い娘を第二秘書として迎えたと、笑いながら答えていたそうだ。
つまり比嘉さんは神永常務と結婚前提で、入社してきたということで……。
高山さんは私にそんな説明はしなかった。
それまで第二秘書はコロコロ代わっていたが、親戚なら常務との相性もいいだろうと思い、頼み込んだと言っていたのに……。
相性とは仕事面でのことじゃなく、異性としてのことだったのだろうか。