鬼常務の獲物は私!?



彼のように取りに来てくれる人に渡し終えた後は、各机を回り配って歩く。

それは男性だけではなく女性にも。

皆んな笑顔で受け取ってくれて、私も笑顔で日頃の感謝を伝えて回った。

後は……まだ星乃ちゃんに渡していなかった。

鞄があるから来ているのは確かだけれど、席にはいない。

キョロキョロと周囲を見回し、壁にもたれて腕組みしながらこっちを見ている星乃ちゃんと目が合った。

近づいて行き、クッキーを差し出し笑顔を向ける。


「はい、これ、星乃ちゃんの分だよ。
いつもありがとう」

「日菜が、大人の女の顔つきに変わった……」

「へ? かなり前から、大人のつもりなんだけど」

「なにがあった?」

「あ……ええと……」


他の人には上手くごまかせても、星乃ちゃんは鋭いから私の変化に気づいてしまったみたい。

一瞬だけ星乃ちゃんに相談してみようかと思ったが、私の中で既に結論が出ていることなのでやめておいた。

常務室に行くのは、今日で最後にしようと思っている。

それを神永常務にきちんと説明して、その後はもう行かない。呼び出されても、脅されても、行かない。

私は慰め者にはなりたくないし、未練がましく常務の周りをうろついていたら、婚約者の比嘉さんに失礼だもの。


< 191 / 372 >

この作品をシェア

pagetop