鬼常務の獲物は私!?
「なんでもないよ」と答えて、背を向ける。
自分の席へ向かおうとして思い直し、顔だけ振り向いて笑顔で言葉を付け足した。
「あのね、星乃ちゃんの占い、ハズレさせちゃってごめんね」
「日菜は……」
星乃ちゃんは目付きを鋭くして、なにかを言いかけたが、「朝礼を始めます」と、元村係長の大きな声が響いたので口を閉ざす。
私はそのまま自分の席に戻り、いつも通りの業務が始まった。
星乃ちゃんの質問攻撃をなんとかかわして、お昼休みが終わり、午後の業務をごく普通に続けていた。
伝票整理の手を止めて時計を見ると、もうすぐ終業時刻。
昨日の常務のメールには、昼過ぎに帰社すると書いてあったのに、まだ呼びしメールは来ない。
出張で不在の間に仕事が溜まって忙しいのだろうと思うが、早く呼び出して欲しいと思ってしまう。
それはもうすぐ会えると浮かれる気持ちでも、早く会いたいという気持ちでもなく、決意を揺るがせたくなかったから。
もう常務室には行かないし、私に構うのはやめて下さいと神永常務に言いたい。できれば今日中に……。
時計と鳴らないスマホを気にしていたら、終業時刻の数分前にやっと呼び出しのメールが来た。
ホッとする気持ちと緊張感の両方を抱いて、「常務室に寄ってから帰ります」と、元村係長に断りを入れ、コートと鞄を手に営業部を出た。