鬼常務の獲物は私!?
ローテーブルに視線を向けると、読めない外国語の文字と西欧の雰囲気漂うデザインが施されたお菓子の缶が、5つも積まれていた。
私のために出張先で買ってきてくれたみたいだが、受け取りたくない。
中身を食べ終えても、可愛い缶は捨てるのが惜しくなる。
そして、その缶を見るたびに、常務のことを考えてしまうのだろうから……。
ソファーに座るように言われたが、私はゆっくりと机の方へ歩み寄る。
常務の後ろには窓があり、ブラインドの隙間から差し込む夕陽が、黒髪とスーツの肩をうっすらオレンジ色に染めていた。
机の横で足を止めて、「お話があります」と話しかける。
でも常務はキーボードに走らせる指を止めてくれず、「後少しで終わるから待ってろ」と言うだけで、こっちを見てもくれない。
待っていられない事情が、私にはあるのに……。
こうして顔を見つめていると、心臓が高鳴り始めてしまう。
素敵な人だと感じてしまうし、求められた過去の言動を脳が勝手に再生してしまい、心が……痛い。
早く要件を済ませて、ここから出て行きたい。
固めた決意が、崩れないうちに……。