鬼常務の獲物は私!?



ショルダーバッグの中からある物を取り出し、ノートパソコンの横に静かに置いた。

それを見て常務は、やっと仕事の手を止めてくれた。

「バレンタインチョコか?」

そう問いかける口もとが綻んでいて、私に向ける瞳には喜びがにじんでいる。

私もニッコリとほほ笑み、「そうです」と答えた。

早速ラッピングのリボンを解き、ピンクの箱を開ける神永常務。

中に入っているのはチョコチップクッキーが10枚で、営業部の皆んなに配った物は丸型だけれど、常務の分だけはハート型にした。

これを作った昨日の夜は、受け取ってくれる常務の顔を想像して、楽しかったから……。


「手作り……。日菜子、ありがとう」


神永常務は箱からクッキーをひとつ摘んで、口に放り込み、「うまい」と言ってくれた。

続けてもうひとつ、ふたつと、私の前で食べる姿を見せてくれる。

嬉しそうな彼を見ていると、心がますます苦しくて……。

必死に笑顔をキープしていた私だけれど、ついに耐えきれずに崩してしまいそうになり、慌ててクルリと背を向けた。


「日菜子、どうした……?」


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