鬼常務の獲物は私!?



仕事と言われたら頷くしかないけれど、本当だろうか……。

常務室でもキスでごまかされて答えてくれなかったし、今も、お風呂に逃げているように見えるのだけれど……。


溜息をついてから立ち上がる。

残さず食べてくれたお皿を片付け、モヤモヤした気持ちを抱えながら、キッチンで洗い物を始めた。

オープンキッチンからふと前を見ると、三人掛けソファーの陰に、小雪ちゃんがひょっこり顔を覗かせて、一度隠れて、また顔を出すことを繰り返している。

その逆側のソファーの陰には、太郎くんが体を半分出した状態で立ち止まっていて、小雪ちゃんの方に視線は向けていないけれど、明らかに気にしている様子だった。

仲良しには程遠い2匹だが、昨日よりは距離が縮んでいる気もする。

「挨拶しに来いよ」と言っているような太郎くんと、出たり引っ込んだりしている小雪ちゃん。

2匹の様子は微笑ましいけれど、小雪ちゃんに対して「思い切って太郎くんに近づいてご挨拶してみればいいのに」とも思ってしまう。


「小雪ちゃん、女は度胸だよ、頑張って!」

キッチンからそう声をかけて、ハッとした。
私の方こそ、思い切りや度胸が必要ではないのかと。

彰さんは私を愛してくれるから巻き込みたくないと思うのだろう。でも、私を守るばかりでは彼の身が危険にさらされる。

そんなのは嫌だから、彰さんに反対されても、私が動くべきではないだろうか。

勇気と思い切りと度胸を持って……。


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