鬼常務の獲物は私!?
車内で緊張している私に、比嘉さんは注意事項の確認を始める。
「いいですか、先方から事務長との交際を打診されても、ハッキリ断ってはいけません。契約にこぎつけるまでは、曖昧に話題を逸らして下さい」
「難しいですね……」
言われた意味は分かるが、それを私にできるかどうか不安がある。
太郎くんが人間だと勘違いさせてしまうほどに、話し下手だし……。
自信のなさに表情を曇らせた私を見て、比嘉さんも考えてくれた。
「分かりました。では、困ったときには何も答えずに微笑むだけにして下さい。きっと高山さんがフォローしてくれるでしょう」
「あ、それなら大丈夫です」
話題を逸らす技術は持ち合わせていないけれど、無言でニコニコするだけなら私にもできる。
後はひたすら、高山さん任せということで。
注意事項はまだ続く。
「事務長、もしくは理事長先生とふたりきりになることは避けて下さい。私がロビーに待機していますのでトイレの時には付き添います。
その他に例えば、庭園を散歩しませんかなどと誘われたら、それはハッキリ断って下さい」
「え……ええと、なんと言って断ったら……」
「そうですね、花粉症がひどいので、外には出られないと言って下さい」
「わ、分かりました」
その後も細々とした注意事項が続き、私は必死に頭の中に刻み込む。
そうしている内にタクシーは大通りから脇道に入り、広い日本庭園を持つ、立派なお屋敷の前で停車した。