鬼常務の獲物は私!?
「育夫、落ち着きなさい。お嬢さんも神永さんたちも、驚いているじゃないか。
本当にお前は女性の扱い方を知らない、純粋な奴だな」
親の目からだと純粋に見えるのか……。
それについては置いておくとして、立ち上がった事務長さんを座らせてくれたことには、感謝の気持ちが湧いてくる。
理事長先生のことは苦手ではない。
初対面で数々の失敗をやらかしてしまった私を笑って許してくれた心の広い人で、尊敬できる人だと思っている。
「お嬢さん」と深みのある柔らかい声で呼ばれて、慌てふためいていた心に落ち着きが戻ってきた。
「こんな息子だが、あなたのことを大切にすることは、親の私が保証する。
すぐに結婚とは言わないからどうか、交際を考えてやってはくれまいか」
「あの、それは……」
「私もお嬢さんのことが好きなんだよ。2年前に亡くした妻の若い頃に、どこか似ている。
優しくて時々おっちょこちょいの可愛い女だった。お嬢さんと話をしていると、寂しい心が慰められる気がしてな」
「あ……」
理事長先生の亡くなった奥様に、私が……。
こんなに一生懸命に息子さんのことを押してくる理由には、それもあったみたい。
寂しいと言われて、心が慰められると言われたら、また会ってお話しをしましょうと言いたくなってしまう。
そのときテーブルの下で、膝の上に乗せている私の左手に、大きな右手が被さった。
それは彰さんの手で、痛いほどにギュッと握られた理由は、心が揺さぶられたことに気づかれてしまったせいなのか……。