鬼常務の獲物は私!?
もちろん彰さんの以外の男性との交際なんて考えていない。
それでも理事長先生の言葉に一瞬だけでもぐらついた心を恥じて、申し訳なくなり、俯いて立ち上がった。
「あの、すみません、私、お手洗いに……」
一度どこかで気持ちを立ち直したい……そんな気持ちでハンドバッグを手に、逃げるように襖の外に出る。
大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出すと、閉めた襖の向こうに彰さんの声が聞こえた。
「前回、新田先生からいただいた質問書の回答ですが、こちらをご覧下さい。へプロ製新型マイクロCTスキャナの出力ですが……」
私が外に出た途端に始まった仕事の話に、もしや私は来ない方がよかったのではないかという気持ちになってしまう。
それと同時に、私が来なかったら相手のテンションが落ちて、ビジネスの話を継続することが困難なのかもしれないとも思い、複雑な心持ちだ。
いても迷惑、いなくても迷惑。
私が彰さんのためにできることって、あるのだろうか……。
スリッパを履いて廊下を歩き、ロビーの方へと向かった。
トイレに行く際は待機している比嘉さんに声をかけることになっていて、ひとりにならないようにと注意を受けたことはしっかりと覚えている。
ロビーに出て、辺りを見回した。
和モダンなソファーセットがふた組置かれていて、比嘉さんはそこに座っているのではないかと思ったが、座っているのは見知らぬお客さんたち。
抹茶と和菓子を楽しみながら、大きな声で会話をしている。
比嘉さんの姿が見当たらなくてキョロキョロしていたら、案内してくれた女将さんが出てきて、私に声をかけてくれた。