鬼常務の獲物は私!?



「お化粧室でしたら、あちらに」

「あ、はい、ありがとうございます。
あの、私と一緒に来た女性がどこにいるか、ご存知ありませんか?」

「お連れ様でしたら、お電話が入ったご様子で、つい先ほど外に出て行かれましたよ」


そう言われて玄関に視線を向けたら、障子紙の張られた開き戸なので、光は入ってきても外の様子は見えなかった。

どうしようと迷って、今度は今歩いてきた廊下を見る。

誰も私を追ってきたりしていない。仕事の話が始まったところだし、理事長先生も事務長さんも、今は抜け出すことができない気がした。

緊張してお茶ばかり飲んでしまったせいもあり、逃げ出すためだけでなく、本当に尿意も感じている。

それで、ひとりでも大丈夫だろうと判断してトイレに向かった。

トイレはロビーの受付カウンター正面の、細い通路の奥にあった。

手前が男性で、奥が女性。中に入ると便器が洋式であること以外は和テイストで統一されていて、洗面鉢が錦鯉の描かれた陶器であったり、ハンドソープの入れ物も古伊万里風の焼き物であったりして、とても素敵だ。


用を足して手を洗い腕時計を見ると、時刻は13時15分。私が到着したのが確か12時半くらいだったと思うから、45分ほど経っている。

終了時刻は聞いていないけれど、あと1時間くらいで終わるかな……早く帰りたい……。


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