鬼常務の獲物は私!?
「わっ! ごめんなさ……い」
ぶつかってしまった相手の顔を見て、ビクッと肩を揺らしてしまった。
生田目事務長さんが薄笑いを浮かべながら私を見下ろしていて、マズイと心が慌て始めた。
ふたりきりになってしまった……。
仕事の話が始まったから抜け出せないはずだと思ったのに、その判断はどうやら間違っていたみたい。
ペコリと会釈して、急いで横をすり抜けようとしたのだが、腕を掴まれ引き止められてしまう。
さらには、手に持っていたスマホを人質のように奪われてしまった。
画面を見た事務長さんは私に問いかける。
「この猫は、日菜子さんのペットですか?」
「は、はい……」
「可愛い白黒の猫ですね」
「あ、ありがとう、ございます……」
いつもならこんな風に太郎くんのことを褒められると、嬉しくなってテンションが上がってしまう。
「他の写真も見て下さい!」と、自分から積極的に話しかけ、猫の話を広げようともしてしまう。
そんな私が今は、褒められてもちっとも嬉しくなかった。早く逃げなくてはと、心の中が慌てるばかり。
「あの、スマホを……」返して下さいと言おうとしたのだが、なぜか渡されたのは事務長さんのスマホだった。
「日菜子さん、僕も猫好きなんですよ。奇遇ですね。飼ってはいませんが、猫画像収集にはまっていまして、これを見て下さい……」
私の手の中の彼のスマホに太い指が触れ、見せられた画像はどこかの猫カフェの室内写真だった。
あれ……この店、見たことがあるような……。