鬼常務の獲物は私!?



彰さんは言い返す言葉を失い、悔しそうに顔を歪めていた。

私は……彼のために役立つどころか、最悪な害を与えてしまったことに、泣き出したい気持ちで震えている。


「日菜子さん、今度ふたりで食事に行きましょう。後日、連絡します。ちゃんと次期社長の神永さんを通して」


ハハハと声を上げて笑いながら、事務長が大きな体を揺すって背を向ける。

そして通路から出て、お座敷の方へとロビーを曲がって去っていった。

唇を噛み締め、憎々しげにロビーを睨みつけている彰さん。

「ごめ……なさい……」

その横顔に向けて消え入りそうな声で謝ると、「来い」と言われて腕を引っ張られ、男性用のトイレの中に連れ込まれてしまった。

幸いなことに、利用者は誰もいない。
一番奥の個室に手荒に押し込まれ、彰さんも中に入り、鍵をかけられる。

ふたりきりの狭い空間で、彼はドアに背を持たれて腕組みをし、無言で私に鋭い視線を向けていた。


ものすごく怒っている……それがヒシヒシと伝わってきて、何てことをしてしまったのだろうと、私は改めて自分を責める。

後継問題があると言ったせいで、さらなる弱みを握られてしまった。

この仕事を取らなければ、彰さんは社長になれないのだという裏事情をバラしてしまい、今後の商談では間違いなく足元を見られてしまうだろう。

いや、その前に、私が事務長と結婚しなければ打ち切りだと言われたから、もう無理かも……。


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