鬼常務の獲物は私!?
唇が離され、見つめ合う。
呼吸が整わずにまだ肩で息をしている私に、彼は言う。
「日菜子はもう帰れ」
「いいんですか……?」
「ああ。相手の機嫌を取る必要はなくなったんだ。お前がここにいる理由もない」
「あ……」
商談打ち切りを覚悟した様子の彰さんに、私は目を逸らしてうつむいてしまう。
すると背中をトイレの壁から引き剥がされて、たくましい二本の腕と広い胸の中に、ギュッと強く閉じ込められた。
「今後なにかあれば、真っ先に俺に相談すると約束してくれ。男としてお前を守らせてくれ」
私を想うその言葉に胸が締め付けられる。
彼の背中に腕を回して抱きしめ返し「約束します」と答えた。
ホッとしたような吐息が耳もとで聞こえ、それから急に「夕食はサバの味噌煮が食べたい」と言われた。
「は、はい……」
「それと、だし巻き卵焼きと、肉じゃが」
こんな時に夕食のリクエストをされたことを不思議に思いつつ、プロの料理人が作った美しい懐石料理を食べたばかりなのに、そんなものでいいのかと思ってしまう。
その気持ちを口にすると、彰さんは少し体を離して私をまっすぐに見つめ、柔らかい笑顔を見せてくれた。