鬼常務の獲物は私!?



彰さんの後ろでビクビクしていると、緊張を孕んだ声で彼が言った。


「理事長先生に申し上げたいことがございます。
私と福原は以前より交際しておりますので、生田目事務長のご要望にお応えできません。
誠に勝手ながら、今回の取引を白紙に……」


白紙にと言ってから、言葉が続かなくなる彰さん。「理事長先生……?」と呼びける声が戸惑っているようで、気になった私は再び彼の横から前を覗いてみた。

すると、理事長先生がこちらに向けて深々と頭を下げているのを見てしまった。

「すまなかった」という謝罪の言葉まで聞こえて、私たちは訳が分からず困惑した。

事務長の要求に応えず、結果として今まで商談にかけた時間と労力を無駄にさせてしまった訳で、謝るべきはこちらなのに、どうして……。


「頭を上げて下さい」と彰さんが言って、やっと理事長先生は顔を上げる。

そして深い溜息を吐き出してから、話し始めた。


「偶然にも君たちの話を立ち聞きさせてもらった。息子が随分と失礼を働いたようで、大変申し訳ない」


そう言われて、なにについて謝られたのかは理解した。

確かに私の気持ちを無視した要求に、事務長のことは酷い人だと感じる。彰さんの夢を潰されたことについては、悲しくて仕方ない。

でも、謝っている理事長先生だって、事務長ほどの横暴さを見せなくても、同じ気持ちなのでしょう……?

息子との交際を考えてほしいと、私に言っていたことだし……。


< 316 / 372 >

この作品をシェア

pagetop