Ri.Night Ⅴ ~Final~【全完結】
目前にあるのは“スナック 雅”。
ビルの一階、一番奥に佇んでいるそのスナックはビルの中が薄暗いせいもあってか不気味な空気を漂わせている。
半壊した看板から察するに今はもう営業していないのだろう。
アジトにするには持ってこいの場所だ。
視線だけを左右に泳がし、所々亀裂の入った壁を見てそう心の中で呟く。
「あ、キョウさん!」
ゆっくり開いた扉から出てきたのは茶髪の男。
静かに閉まる扉を背に、男はゆっくりと此方へ向かって歩いてくる。
扉が開いた時から交わしている視線。
一度も逸らされる事のないその瞳は意味ありげに揺れていて。
「ごゆっくり」
「……っ、」
すれ違いざまに囁かれたその言葉にザワリと胸がざわついた。
「お前、」
直ぐ様呼び止めるが男は止まる事なく立ち去っていく。
振り返らずにヒラヒラと振られた右手。
その手を見て、嫌な予感がした。
あの目が、愉しげに弧を描いている口元が何かを企んでいるような気がしてならない。
「オイ、ボーッとしてんなよ。さっさと歩け」
右隣にいた男に右腕を引かれ、無理矢理歩かされる。
男は“スナック 雅”の扉のをニ、三度ノックすると、返事を聞く前にドアノブを引いた。
「シンさん、連れて来ました」
シン?
部屋に入るなり耳に飛び込んできた名前。
それは何処かで聞いた事のある名前だった。
「ホラ、入れ」
左隣の男が早く行けと言わんばかりに俺の背中を荒々しく押す。
少しヨロけながらも“スナック 雅”の中へ足を踏み入れると。
「──久し振りだな、東條 凛音」
呼ばれたのは凛音の名前。
弾けるように顔を上げると、視線の先には一人掛けソファーに深く腰掛けた男がいた。