Ri.Night Ⅴ ~Final~【全完結】

店内はスナック特有の造りになっていて、今は使われていないであろうカラオケ機器と薄汚れたカウンターが営業当時のまま残されていた。


だが、男が座っているソファーやそのソファーの左右にある三人掛けソファー二つは後で持ち込まれた物らしく、まだ真新しさが残っている。


此方から見て左側のソファーにスパイ男、右側に赤毛の男が座っていて、一人掛けソファーの後ろにはフードを被った男がいた。


その男は此方に背を向け、一人掛けソファーの背凭れに腰掛けている。顔はフードで見えない。




此処にいるのはこの四人だけ。


コイツ等が“D”の幹部なのだろう。


いや、あと一人、さっき出ていった茶髪の男も幹部の一人だ。そんな気がする。


そして、“D”のトップは多分あの男。


ふんぞり返る様に深くソファーに腰掛け、手の甲でこめかみを押さえている男。


俺に向かって“久し振り”とほざいた男。


俺の勘が正しければ、奴が“D”のトップだろう。


その男は上目遣いで俺を見据えると首を正常な位置へ戻し、


「俺の事分かってねぇのか?……あぁ、帽子で顔隠してたもんな。“あの時”は」


そう言って意味ありげに口角を引き上げた。



「“あの時”だよ。獅鷹と鳳皇に嵌められたあの抗争」

「……っ、あの時の?」

「……そう。“あの時”の」


目を見開いた俺を見てやっと思い出したか、とでも言いたげに肩を竦めた男。


だが、俺は男を思い出した訳ではなかった。


俺が言った“あの時”というのは“抗争”の事で、男が言っている“あの時”とは抗争が終わった後の事を言っている。


中田と決着がついた後先に帰った俺がこの男と会っている筈がない。


だから、この男が言っているのは俺ではなく凛音という事になる。


その証拠に今思い出した。


“シン”


それは、獅鷹と鳳皇が同盟を組んだ時に出てきた名前。



桐谷が言っていた元鳳皇の傘下。


“白狼”のトップ、“シン”だ。
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