俺様黒王子とニセ恋!?契約
三つある射位の一番左端。
そこに、道衣姿の篤樹が、長い和弓を手にまっすぐ的を見据えていた。


久しぶりに見る凛としたその姿に、ドクンと大きく鼓動が騒ぐ。


的を微妙に外した後なのか、篤樹は真剣な瞳で的を睨みつけていた。
距離を測って、一度大きく肩で息をする。


間合いを保って、射位について足踏みした後、まっすぐ弓を構える。
弓懸と呼ばれる皮の手袋を嵌めた右手で、ギリッと弓をしならせて矢を番える。
遠く二十八メートル先にある的をまっすぐ瞳で射抜いてから、篤樹の身体がぶれることなく矢を放つ。
バシッと鋭い音が響いて、篤樹が放った矢は的のほぼ中央に刺さっていた。


矢が描いた放物線を瞳に焼き付けるように、篤樹は姿勢を崩さずにそのまま数秒保った。
そして、やっと、大きく息をする。


「……アイツの『残心』は、男でも見惚れるよな」


篤樹と同化して同じタイミングで深呼吸した私の背後で、そんな声が聞こえた。
ハッと振り返ると、篤樹と同じ道衣を纏った静川さんが、まっすぐ篤樹に視線を向けて佇んでいた。


「ほんと、男のくせに綺麗だ。……けど、珍しい。五射でやっと皆中か。相当心が乱れてるんだろうな」
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