ドルチェ セグレート
少し歩き進めたところで、先手必勝とでもいう勢いで自ら話しかける。

「あの! この間頂いたケーキ。あれ、すごく美味しかったです」
 
声が震えてるのをごまかすように少しトーンを上げ、わざとらしいくらいに明るく振る舞った。

「実はまだ、アンサンブルは食べたことないんですけど。でもきっと、私、神宮司さんが作ってくれたものの方が好みな気がします」
 
緊張からか、やたら流暢に言葉が流れ出る。
そんな私の話を最後まで聞き終えて、神宮司さんがぽつりと言った。

「気ィ遣いすぎ。俺のしか食べてないなら比べようがないだろ」
「いえ。きっとそうです!」

確かに、昨日の今日の微妙な雰囲気で、出だしからべた褒め内容だったら『気を遣ってる』と言われるのもわかる気がする。
 
だけど、本当に違うから。
 
一歩先を歩いて神宮司さんの前に立ちはだかると、彼と正面から向き合った。

「だって、私たち好みが一緒で。その神宮司さんが、アンサンブルを食べたうえで作ったものだったなら、絶対に神宮司さんのケーキの勝ちです!」
「……『勝ち』って。おかしなヤツだな」
 
まるで小さな子供のような私の言い分に、神宮司さんは目を剥き、その後笑った。

片眉を下げ、半ば呆れたようにも感じる笑い方。
それでも、私はその笑顔で少し気持ちが軽くなる。

「でも、本当ですよ。気を遣って褒めるためだけに、わざわざ仕事後に猛ダッシュして会いにきたりしません」

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