【改訂版】ワケあり上司とヒミツの共有
――事件は、何の前触れもなく起こった。


…カタカタ……カタ…カタカタカタ……。

まだ誰も戻って来ていない秘書課で、一人黙々と作業を進める。

「あれ~?まだお昼休みよ?」

そう言いながら、どこかに行っていた咲希子が秘書課に帰って来た。

「うん。ちょっと午前中の遅れを、ね……」

「あー。あんた何か変だったもんね」

咲希子に言われ、キーボードを打つ手が止まる。

「……そんなに?」

「うん。ニヤニヤしたり、落ち込んだり。気持ち悪かった」

「マジか……」

ガクッと肩を落とす。

「なんかあったんだろうけど、深くは聞かないでおいてあげるよ。ま、頑張りたまえ」

そう言って咲希子は持っていた袋の中からプリンを2つ取り出し、1つを私にくれた。

「え、いいの?」

「あんまり根を詰める事ないよ。少し休んで一緒に食べよう」

「……ありがとう」

咲希子の気遣いにジーンとする。

「いただきます」

手渡されたプラスチックのスプーンでプリンを一匙(ひとさじ)すくい、口に運ぼうとした瞬間、『ピロリンッ♪』と、突然メールが届いた事を知らせるベルが私のパソコンから鳴った。

「ん?メール?」

「みたいだね」

「もしかして、津田部長からなんじゃないの?」

咲希子がニヤニヤしながら指を指す。

「そんな訳ないでしょ……」

と言いながらプリンを食べるのを止め、メールを開く。

「えっと……?」

メールの内容を読んで行く内に、私はその場に凍り付いた。

「ねえ、なんて?……江奈?」

返事をしない私に代わって、咲希子が「なになに?」と、内容を読み上げる。
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