キミが欲しい、とキスが言う



「じゃあ今日はお疲れさま」


公民館で再びバスを降り、それぞれが家へと帰っていく。時間は十六時半。夏だし、まだまだ日中の様相で、子供たちは物足りなさそうだ。


「浅黄、もうちょっと家で遊ぼう」


幸太くんの誘いに、浅黄は困ったように私を見る。
浅黄自身は、私から早く話を聞きたいのだろう。
どう話したものか迷ったままの私には、幸太くんの申し出は渡りに船だった。


「いいわよ。行ってらっしゃい」

「でも、さっきの」

「浅黄の聞きたいことは、後でちゃんと話してあげるから」

「本当」

「本当よ。約束」


指切りをすると、浅黄はようやく安心したように笑った。そして幸太くんとふたりで駈出すようにして先を行く。


「悪いわね、美咲ちゃんも疲れているのに」

「いいのよ。それよりさ。今日の事、馬場ちゃんに話した方がいいんじゃない? 何なら落ち着くまで浅黄くん預かってもいいわよ」


彼は今日は昼番だ。
日によるけれど、十七時頃には手は空いているだろう。


「……頭が混乱して。ちゃんと話せそうにないわ」

「でもさ。話した方がいいと思う。茜ちゃんが馬場ちゃんを大事だと思うなら。あの様子だと、ダニエルさん、ふたりのこと諦めてないと思うし、後から知らされたらやっぱりニセだからって思うんじゃないかな」


美咲ちゃんには、彼とのことは話していた。今はニセの婚約者ということで落ち着いていることも。
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