キミが欲しい、とキスが言う
「ついでに、自分の気持ちも伝えた方がいいよ。ふたりの気持ちが通じ合ってなきゃ、浅黄くん守れないじゃん。相手は本当の父親なんだし」
「……そうね」
私一人だったら、きっと考えるのをやめていただろう。
そしてどうしようもなくなってから、一番最悪の結論を導き出す。
これまでの人生、ずっとそうだった。
誰か一人に相談するだけで、こんなに世界は変わるのか。
少し背中を押してもらえるだけで、こんなにも勇気をもらえるものだったなんて。
「そうね。……今からお店に行ってみる。ちょっと時間かかるかもしれないから悪いんだけど浅黄を頼める?」
「いいよ。終わったら電話して。何なら夕飯も食べさせておくから」
「ありがとう」
私はそのまま駅へ向かうことにした。
今日は子供たちと出かけるからと、かかとの低いサンダルを履いていたから、早く走れる。
まだ店にいてくれるだろうか。ここで行き違いになると、今の勢いを失っちゃう。
電車に乗り、降りてからもまた駈け出す。普段、走らない私の息はすぐに上がる。胸が苦しい、心臓がパンクしそう。でも、立ち止まったらまたすべてを諦めてしまいそうで。人波をすり抜けながら走り続けた。
「茜さん?」
駅からの一本道は広く、人通りも多い。いくら走っていて目立ったからとはいえ、見つけられるものだろうか。
現に私は、名前を呼ばれるまで気づかなかったのに。