キミが欲しい、とキスが言う
「どういうこと?」
「私を捨てたアメリカ人が、今ごろ現れたのよ」
「……浅黄に、父親いたのか」
間の抜けたことを馬場くんが言うから、逆に力が抜けて話しやすくなった。
「そりゃいるわよ。聖母マリアじゃないんだから」
「死んでるんだと勝手に思ってた」
「死んでないわ。……でもいないのと同じようなものよ。あの子の存在を、彼は知らなかった。別れてしばらくしてからお腹にいることが分かったの。当然彼には知らせてない。知らせる手段もなかった」
「どうして? 連絡先くらい……」
「別れたのは彼が帰国するときよ。携帯も日本で使っていたものは解約していった。私からの連絡手段はなかったの。私は、父親なんていないと思ってあの子を育ててきた」
「だったらなんで今更」
「私もそう思ってるわよ。……それで私も浅黄も混乱して。浅黄にちゃんと話さなきゃいけないけど、あの子になんていえばいいか分からなくて」
「待って。浅黄も会ったの?」
「止める暇もなかったのよ」
そのまま、昔のキャバクラの常連である森田さんと会ったこと、彼からダニエルが戻っていることを聞いたこと、そのすぐ後にダニエルが会いに来たことを話した。
馬場くん一歩下がる。嫌な予感がして私は彼を見上げた。予想以上に彼の顔が青ざめている。
「じゃあ、相手の男は茜さんを迎えにきたってこと?」
「言っていることを信じるならそうなるわね」
「本物の、浅黄の父親だろ?」
「まあそうね。でも認知もしていないし、証拠は何もないけどね」
馬場くんが、状況を冷静に分析しようとしていることが、なんだか苛つく。
一緒に怒ったり呆れたりしてほしいのに、理詰めで考えるのやめてほしい。