キミが欲しい、とキスが言う

「どういうこと?」

「私を捨てたアメリカ人が、今ごろ現れたのよ」

「……浅黄に、父親いたのか」


間の抜けたことを馬場くんが言うから、逆に力が抜けて話しやすくなった。


「そりゃいるわよ。聖母マリアじゃないんだから」

「死んでるんだと勝手に思ってた」

「死んでないわ。……でもいないのと同じようなものよ。あの子の存在を、彼は知らなかった。別れてしばらくしてからお腹にいることが分かったの。当然彼には知らせてない。知らせる手段もなかった」

「どうして? 連絡先くらい……」

「別れたのは彼が帰国するときよ。携帯も日本で使っていたものは解約していった。私からの連絡手段はなかったの。私は、父親なんていないと思ってあの子を育ててきた」

「だったらなんで今更」

「私もそう思ってるわよ。……それで私も浅黄も混乱して。浅黄にちゃんと話さなきゃいけないけど、あの子になんていえばいいか分からなくて」

「待って。浅黄も会ったの?」

「止める暇もなかったのよ」


そのまま、昔のキャバクラの常連である森田さんと会ったこと、彼からダニエルが戻っていることを聞いたこと、そのすぐ後にダニエルが会いに来たことを話した。

馬場くん一歩下がる。嫌な予感がして私は彼を見上げた。予想以上に彼の顔が青ざめている。


「じゃあ、相手の男は茜さんを迎えにきたってこと?」

「言っていることを信じるならそうなるわね」

「本物の、浅黄の父親だろ?」

「まあそうね。でも認知もしていないし、証拠は何もないけどね」


馬場くんが、状況を冷静に分析しようとしていることが、なんだか苛つく。
一緒に怒ったり呆れたりしてほしいのに、理詰めで考えるのやめてほしい。
< 149 / 241 >

この作品をシェア

pagetop