キミが欲しい、とキスが言う

「今はその男何してるって」

「大学の助教授ですって。……留学生で日本に来ている間付き合っていたのよ。それから九年。探してたって言われたって知ったことじゃないわ」

「でも海外からなら、そんなに簡単に来れるもんじゃない」

「だからって、今更何? 私だってすぐ連絡先を変えたわけじゃない。携帯だって、一年はそのままだったのよ? それでも彼から連絡なんて来なかった」


ダニエルを擁護するような言葉を、馬場くんに言われるとイライラする。激高したまま、本音を吐き捨てた。


「九年も放っておかれたのは事実よ。今さら探してたなんて言われたくない。浅黄のことだって、存在さえ知らなかったくせに、父親面なんてされたくないの」


言い切ってから、ぽつりと「悔しい」と自然に口から洩れた。

私の本音だ。悔しい。
ここまで必死にやってきたのに、何を善人面して「探してた」よ。


「茜さん」


馬場くんは、私をなだめるように背中を撫でた。
寄りかかりたいような気持ちになったけれど、できなかった。
馬場くんさえもダニエルの味方をしそうで、信用できない。


「浅黄は、なんて言ってる?」

「まだちゃんと話してないの。これからよ。どう伝えたらいいか分からないから、あなたに会いに来たのよ」


顔を上げて、彼を見つめる。その、困ったような顔やめてほしい。どんどん悲しくなってくる。
詰まりそうな喉から必死に息を吐きだした。

「馬場くんは、どうしたらいいと思う?」

彼は私の視線を受け止めて、寂しそうに眼を伏せた。
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