キミが欲しい、とキスが言う
「ダニエルはここにいて。あの子が帰ってきたら教えてほしいの」
「でも」
「番号なら教える。でも家には入れないわよ。私が帰ってくるまで、扉の前で待ってて」
「分かった」
手帳の一ページを破り、携帯番号を書き込んで渡す。
ダニエルは十一ケタの数字を安心したように眺めると、扉によりかかった。
「頼んだわよ」
私と馬場くんは顔を見合わせて、一緒に走り出した。
階段を下りたあたりで馬場くんがぼそりとつぶやく。
「……よかったのか?」
「今は仕方ないじゃない。探している途中で浅黄が戻ってきても困るし。彼なら絶対浅黄には危害は加えないわよ。立場ある人だから法的にまずいこともしないでしょ」
「でもさ。連絡先教えたら今度いつ押しかけてくるか」
「今後のことまで考えられないわよ。それに、隣にボディガードがいるようなものだもん。何とかなるでしょ」
あなたが守ってよ、と暗に言ったら、馬場くんの手が私の頭を撫でてほほ笑んだ。
「違いない。じゃあ俺こっちに行く」
そこから離れて走り回り、私は幸太くんの家までの道を周りを確認しながら走った。いつも遊んでいる公園の物陰も漏らさず確認した。それでも浅黄の姿を見つけることはできない。