キミが欲しい、とキスが言う

浅黄は今日お金を持っていない。だから、電車に乗ったりは出来ないはずだ。

徒歩圏内で、幸太くんち以外にあの子が行きそうなところなんて、近所のスーパーくらいしかないけれど。
でも、他にクラスに友達とかいるのかしら。知ってるつもりでも知らないことがたくさんあるのかもしれない。
浅黄が何もかもを私に話していると思えないし。

どこを探したらいいか迷いながら公園のあたりまで戻ってきたところで、背中から名前を呼ばれる。


「茜さん!」

「馬場くん」

「親父さんちは来てないって。来たら連絡くれるように言ってた」

「そう」

「……どこに行ったのかな」

「先に浅黄にちゃんと話してあげればよかった。あの子だって不安なのに」


自分の気持ち優先させて、本人が目の前にいてさえ誤魔化した。
本当の父親だと知ったら、自分と似た金髪を見たら、私といたいっていう浅黄の気持ちが揺らぐんじゃないかなんて疑って。

頬を軽くつねられて、顔をあげたら馬場くんが心配そうに私を見ている。


「茜さんが落ち込んでどうするんだよ。大丈夫、浅黄がそう遠くに行くはずがないだろ。近所探してれば絶対に見つかるはずだよ」

「そう……よね」


そのうちにアパートが見えてくる。ここからでも、部屋の前にダニエルが立っているのが見えた。

浅黄は戻ってきていないんだな。
ダニエルにもなんていえばいいのか。

気が重くなってため息とともに視線をずらすと、向かいのアパートの貯水タンク部分に人影を見つけた。
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