キミが欲しい、とキスが言う
「アカネさんにお願いがあります。僕の日本語をチェックしてくれませんか」
真摯な青い瞳が私をとらえる。
彼の瞳に映った私は戸惑いつつも営業スマイルをかかしてはいない。
「そういうのは教授に頼まないと。ねぇ? 森田さん」
「なんだ口説いてるのかダニエル」
揶揄されて、彼は一気に真っ赤になった。
母から聞かされていた外国人のイメージとは、かけ離れて内気だな、と思う。そしてそこが、私を強烈に引き付けた。
また、会いたい。
ここじゃなくて、仕事が絡まない場所で。
当時の私は思い立ったら即行動だ。
「また来てくださいねぇ」
「え?」
別れ際、握手をしながら忍び込ませた携帯電話の番号。
ダニエルは戸惑いながらも、その白い顔を思いきり赤くして微笑んだ。
お客との一線は超えないように務めていた私が、店の外でも会いたいと思ったのは初めてのことだ。
彼からは、三日後にかかってきた。
『……覚えてますか。ダニエルです』
忘れるわけないでしょう。
こっちが電話番号渡したんだから、そこはビビらなくていいのよ。
「もちろんよ。元気?」
『はい。……あの』
「あなたのお願い、聞いてあげる。日本語チェック。お店じゃないところで会いましょう?」
上からの物言いをしたのは、恥ずかしさを隠すためだ。
約束をして、出勤前の時間に待ち合わせたダニエルは、店の明かりの下で見た時よりも、精悍で大人に見えた。
でも、すぐ恥ずかしがるところは同じで、私が何か言うたびに、顔を真っ赤にしてしきりに髪をかく。