キミが欲しい、とキスが言う
彼がよく話してくれたのは、色の話。特に日本の伝統色についてだ。
もともと、色に関する研究をしていた彼が特に興味をひかれたのが、和の色なのだという。
「紅、緋色、茜、蘇芳。赤色だけでもたくさんあります。黄金、伽羅、琥珀、藤、浅葱、藍、言葉がきれいで本当に面白いです」
「ふうん」
「アカネは夕暮れの赤です。とても好きな色。あなたの名前はとても綺麗」
金髪が光を受けてキラキラ輝く。
あなたのほうがよほど綺麗よと言いそうになりつつ、「ありがとう」と素直に受け止めた。
ダニエルに言われると、自分の名前に価値があるような気がして、うれしかった。
彼といると、自分の好きなところが増える。
名前も、この顔も、髪も、褒めてくれるからどれも好きになる。
交際は、順調だったと思う。
彼は私の仕事に対して口を出すことはなかったし、私は、論文発表のたびにカチコチになる彼をうまくほぐしてあげれたと思う。
ダニエルに日本の観光案内をする日もあれば、一日中ベッドで愛し合う日もあった。
どこにいても何をしていても、彼といられればそれで楽しかったのだ。
二年の交際期間、別れ話など一度も出なかった。だけど、彼の留学には期限があることを私は知っていた。
森田教授が、心配して教えてくれていたからだ。
「君のおかげか、彼のあがり症もずいぶんなりをひそめてきた。論文もいい出来だし、研究結果をまとめたら、彼はこれを本国で広めるために帰るだろう。それでも、いいのか?」
私を心配していたのか、彼の方を心配していたのかはわからない。
その視線には、批難も含まれていたように思う。