キミが欲しい、とキスが言う


 軽く寝直すこと二時間。予想外に早く目が覚めてしまったのは、やはり一方的にさせられた約束が気になるからだろう。
 洗濯機を回しながらシャワーを浴び、身だしなみを整えてから出来上がった洗濯物を干す。
そうこうしているうちに、玄関ベルが一度だけ鳴らされた。


「はい」

「あれ、起きてました?」


そこにいたのは馬場くんだ。
朝よりは少しかしこまったTシャツにジーンズ。それでもラフな格好であることには変わりない。
すでに汗がにじんでいて、首のあたりは湿った色になっている。


「起きてたわよ。音響かなかった?」


洗濯機の音なんか結構響くのに、気づかないとかどうかしている。


「ちょっと出かけてたんです。それより、どこ行きたいです?」

「どこでもいいわよ。夜は仕事もあるから、遠出はカンベンだわ」

「了解。中と外なら?」

「日焼けNGだから中」

「オッケーです。準備できたら来てください。車、下に置いてあります」


ここのアパートには駐車場がない。
だから車と言われて思わず聞き返してしまった。


「……馬場くん、車持ってたの?」

「仲道さんから借りてきました」


ああ、それでさっきまでいなかったってことね。納得。


「わざわざ?」

「だってあんまり立ちっぱなしだと疲れるでしょう。下で待ってます。準備できたら来てください」


あんまりされない気の使われ方に、ほわんと心があったかくなる。
勢いで連れ出されている感じはしないでもないけど、たまにはいいかもしれない。

ちょっとだけ、うきうきした気分になっているから。

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