正義の味方に愛された魔女2
無言で出ていこうとする彼女を呼び止めた。
このままただ黙って帰すわけには行かない。


「あの…お客様!」


ビクッ!!


そうだよね、普通そういうリアクションになるよね。


「お客様は天然石がお好きな様ですが、
普段どんなお手入れをされていらっしゃいますか?
色々な方法がございますのでよろしければご紹介させていただきたいのですが……」


もう、強引でも何でもいいや!
女の人の手をとって、奥の応接スペースへ…。




不機嫌そうに座るその人の前のテーブルの上に、
「天然石のお手入れ」という小冊子を置いた。
ペラペラとページを捲りながら、


「そうねぇ…水道水で流して浄化してる。
そのあと柔らかい布で拭いて自然乾燥。
あとクラスターの上に乗せてる…くらい」


一緒に小冊子を捲る振りで、さりげなく指先に触れる。

ちゃんとお手入れしてくれてるんだ。良かったけど……。


「水晶の仲間はほとんど流水浄化で大丈夫です。
クラスター浄化は乗せておくだけで簡単ですから、持っていらっしゃるのは良いですね。

でも、さっきのラリマーの様に脆い石は、水に浸けないように扱った方がいいんですよ?
満月浄化や、ハーブの煙を当てる方法はよく知られています。
こういうのは、信じる信じないの話になっちゃいますけど…。
販売する立場でこれを言っちゃいけないですけどね。
他にも色々な方法があって、この冊子にまとめてありますので、
ぜひ一部、お持ちになってください」




《えっ?ラリマーって水に浸けちゃいけなかったの?やだ、どうしよう。
次の満月っていつだっけ?》


何気なくググる。次の満月は……?


「私、ラリマー持ってるんだけど水に浸けちゃって……。短い時間一回だけだけど。
大丈夫かな?」


ラリちゃんの心配してくれてるんだ。これからは大丈夫そう……。


「短時間で一度くらいなら大丈夫じゃないでしょうか?そのあと柔らかい布で拭いてあげていますし。
ラリマーなら、さっき言った満月浄化が簡単だし良いですよ?
えっと、次の満月は……八日後、ですね。

あと、満月にこだわらなくても月齢に関係なく月光浄化でいいという説もあるんです」


《へー、そうか…じゃあ今晩ベランダに出さなきゃな》


「月の光の浄化は、外に出さなくてもガラス越しの光で充分だという人もいますよ?」


《この人親切だな。いい人だ。
知りたいと思うこと全部教えてくれる。

悪いことしたよね。良心が咎めるわ……。
でも今さら、謝って返したりお金払ったりするわけには行かない。
警察に通報されたら……。
家にも周りにも知れて、私の人生終わるわ。
そうだ、少しでも買う?
あのピアス、イヤリングにしてもらって…》


「あのぉ…やっぱりさっきのピアス、イヤリングにしてもらって買って行くわ!」


「あ、ありがとうございます」


わぁ……気に入って買ってくれるのは凄く嬉しい…けど。


相談してみようかな?龍二に……。
(ここ一週間で「荒川さん」からすっかり名前呼びになったんだ…)


証拠ないし、盗品とお揃いの商品を買ってくれた。
ラリちゃん達のお手入れもちゃんとしてくれそうだ。
でも、だからって無かったことにするのは…、
駄目だよね、うん、わかってるけど…。
報告はしなきゃね。


「カードで支払うわ。二回でね。
それで、出来上がりはいつになるかしら?」


「はい、かしこまりました。
仕上がりは……そうですね、あいにくパーツの在庫を切らしておりまして、
申し訳ございませんがお渡しは一週間後になります。
お待ちいただけますでしょうか?」


「急いでないから、それくらい待つわ」


嘘だ。パーツの在庫はある。あり余っている。
龍二に相談したいから日にちを多くとったのだ。




「どうもありがとうございました。一週間後、お待ちしています」




なんだかなぁ。
せっかくのお買い上げだったけど、罪の意識を軽くしたい為、っていう感じなのがひっかかる。

みんなにバレたら人生終わる、っていうのもね。
………哀しい人だと思った。

「悪いことしたなって思ってくれて、
あの子達を大切にしてくれるなら
被害届を取り下げてもいい」
なんて、やっぱりよくないよね。







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