放課後、キミとふたりきり。
茅乃の長いまつ毛に縁どられた瞳が、わたしを見つめて微笑む。
まるで母親……と言うと怒られそうなので、姉のような慈愛のこもった視線に、心の鎧が剥がれていく気がした。
「ほら、千奈。遠慮も我慢もしなくていいから。あんたの気持ち、言ってみな」
「茅乃……わたしじゃ、ムリだ」
「どうして? 矢野がこわい?」
こわい……。
考えて、そっと首を横に振る。
確かにこわいのはこわい。
何を言われるかとビクビクしてしまうのはある。
でもそれは、彼自身をこわいと思ってるんじゃないと気づいてしまった。
「……矢野くん、ずっとわたしに腹を立ててばかりなの。少しまともに話せるようになったと思っても、気づいたら彼を苛立たせてる」
彼を苛立たせてしまうことがこわい。
あの目で睨まれるのがこわい。
彼にあきれられるのがこわい。
わたしは矢野くんに、嫌われることがこわいんだ。