放課後、キミとふたりきり。

「矢野がそう言ったの?」

「何回も……腹が立つって」


言いながら彼の声を思い出し、組んだ手をぎゅっと握る。


「あいつほんと口悪いな!」

「賢いふりしてっけど、バカだよな矢野は!」

「男子うるさい! ……それで、誰かに代わりをって?」


矢野はバカだと騒ぐ男子を黙らせて、茅乃がわたしの顔をのぞきこむ。

悔しさのようなものを感じながら、うなずいた。



「わたしじゃ、矢野くんの心を開けないから。笑ってすらもらえないし、逆にどんどん心を閉ざしていっちゃう」

「そう……。じゃあ千奈は、誰なら矢野の心を開けると思うの?」

「誰……それは、わたし以外なら誰でも……」



誰でもできる。

そう言おうとして、甘い香りが蘇る。

自信に満ち溢れた華やかな笑顔。


矢野くんと遠慮のない言い合いができる唯一の女の子。



「……藤枝さん、かな」


「え? 藤枝って……矢野の元カノの?」
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