平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
スマホに映し出された写真を見ながら、「乾杯」とグラスを掲げる。

おめでとうございます! 本当によかった。

「で、この子はどちらなんでしょう?」
「女の子らしいよ、これでも。予定日より少し早かったわりには大きくて、母子ともに健康だって。これでホントの叔父さんになっちゃったな」

苦笑いに顔を歪ませながらも、ホッとした、という想いが言葉や表情のの端々から溢れていた。

それにしても産まれたばかりで真っ赤なしわくちゃの顔がこんなにも可愛いと思えるなんて、わたしも年を取ったのかなぁ。
口当たりの良い甘口の日本酒は、水のように喉を通る。気づけばすでに、半分くらいに減っていた。

「この前のも良かったけど、これも美味しいですね」
「気に入ってくれた? とっておき第二弾」

自分はすでに2杯目に入っているのに、ちっとも顔色が変わらない。あいかわらずの呑みっぷり。

そうだ、と立ち上がった晃さんが厨房に入る。冷蔵庫を開ける音と、しゃかしゃか、ジュッという、この一週間毎日自分が立てていた耳慣れた音が続いた。

「やっぱり、礼ちゃんにはこれがないとね」

予想通りの品の登場に涙腺が緩みかけた。やっぱり、いろいろとズルいです。

「それと、こっちはね」

四角い缶の蓋をベコっと音を立てて開けると、色も形もまちまちの紙片が入っていた。

「……これって」
「そう。礼子ちゃんが弁当に付けてくれた付箋とかメモ書き」
「取って置いてくれていたんですか、全部?」

美味しいお弁当が嬉しくて書いていた、たった一言の感想文。最後のほうはもうほとんど習慣になっていた。

「じゃあ、これも覚えてる?」

一番下から取りだしたのは、他の紙よりちょっとだけ色あせた一筆箋だった。

「それってたしか、辰樹屋さんのお弁当箱に入れた……」

まだ辰樹屋さんの味が変わる前は、仕出し弁当を毎日のように職場で食べていた。冷めても美味しいおかずのお礼を伝えたくて、一度だけ、洗って返すお弁当箱の中に入れたものだ。

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