平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
「礼子ちゃん」

咎めるような声色にビクンと肩を揺らした。きっと、あまりにも子どもじみた行動に呆れられたに違いない。

「それで、誤解は解けたと思うんだけど、オジさんはどうしたらいいのかな」
「えっ? どうって――」
「もうすぐ四捨五入したら不惑で、新しく店を始めたばかりの借金を抱えている、しかもうるさい小姑までいる独身男。こんなヤツじゃ、前途明るいお嬢さんに似つかわしくない。そう思って、やる気元気、負けん気に溢れるピチピチの社長令息に、涙を呑んで身を引こうとしていたんだけど」

まさに立て板に水のしゃべりで一息に言い切ると、晃さんはへにゃりと眦を下げる。

「俺のほうこそ諦めずに、期待してもいいのかな?」

昼間聞いたはずの同じ単語が、まったく違う意味をもつ言葉のように思えてくる。期待って、期待していいの!?

「あの、それって。えっ!?」

急展開についていかない脳みそが沸騰しそう。顔が燃えるように熱いんですけどっ!

「言ったよね? 俺は気が短いって」

その言葉とは裏腹に、ゆっくりテーブルを回り込んでわたしの隣に立つと、卓上に片手をついて腰を屈めた。

「このお酒、好き?」
「……? はい、甘口で呑みやすいです」

このままではすっかり日本酒党になりそうだ。

「じゃあ、これも?」

まだ2切れほど残っている玉子焼きを指す。

「もちろん。晃さんの玉子焼きが、世界で一番美味しいですよ?」

お世辞抜きに本気で答えると、ほわっと明るく笑んで目尻の笑い皺が増える。その、蕩けそうに甘い笑顔のまま、

「最後の問題。その玉子焼きを作った人は?」
「――っ」

すでに告白したも同然なのにダメ押しするんですか? この至近距離でっ?

「やっぱりオジさんはイヤ?」
「だからっ! 晃さんはオジさんなんかじゃありませんっ!!」
「でも、そろそろ加齢臭とか気になるお年頃だし」
「そんなことないです。カツオ出汁の美味しそうないい匂いがします。わたしの大好きな香りです。――大好きな人の、香りです」

尻すぼみになりながらもどうにか言葉を紡ぎ出せば、「よくできました」と頭をグリグリと撫でられる。
ぶわっと全身が熱くなって、恥ずかしすぎて顔が上げられない。

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