29歳、処女。
喜多嶋さんと話していると、どんなことでも大したことじゃないような気がしてくるから不思議た。


よくも悪くも、ものすごく大きな影響力があって、いつも気がつくと喜多嶋さんに巻き込まれて、振り回されてしまっている。


それはたぶん、職場のみんながそうだと思う。


まるで、何もかも巻き込んでしまう台風の目みたいな人だ。

それか、有無を言わさず周りの人を明るく照らしてしまう太陽みたいな。



そんなことを考えながら、無意識に喜多嶋さんを見つめていると。



「なに見とれてんだよ、雛子」



いきなり喜多嶋さんの意地悪そうな笑顔が近づいてきて、どきっとした。


せっかくおさまりつつあった顔の火照りが復活してくるのを自覚する。



「み、見とれてなんかいません! ちょっとぼーっとしてただけです!」


「必死に否定するところがあやしいなあ、んん?」


「………もう、からかわないでくださいって………」



喜多嶋さんの視線から逃れようと顔を背けた拍子に、壁にかけられていた時計が目に入った。



「あっ、もうこんな時間。そろそろ失礼しますね」



そう言った瞬間、喜多嶋さんが妙な表情になって、



「切り替え早っ!」



と呆れたように言った。



「え? 切り替え?」



意味が分からなくて首をかしげると、喜多嶋さんが項垂れて、はああっとため息を吐き出す。




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