29歳、処女。
次の瞬間、喜多嶋さんの唇が私のそれに触れた。


軽く、ふわりと。



目を見開いて見つめる。



「どうせ、こういうキスだろ」



甘い声がささやいて、私はこくりと頷いた。


たった今触れたばかりの、形のいい唇が、にっと微笑みの形をつくる。



「生意気」



あ、と思ったときには、大きな手が私のうなじをつかみ、動きを封じられた。


そのまま、唇を唇で塞がれる。


驚いて硬直していたら、指先で鎖骨を撫でられた。


反射的に声を上げたくなって、唇を開いたすきに、キスが深くなった。



柔らかいものに容赦なく口の中をおかされる感覚。


頭がくらくらして、目がよく見えなくなって、心臓がうるさくて何も聞こえなくて、私は瞼を閉じた。



息が苦しくなって喘いだら、さらにキスが深くなった。



どれくらい時間が経ったのか分からなくなったころ、やっと喜多嶋さんは私を解放した。



「………びっくりした」



思わず素直な感想が洩れた。


喜多嶋さんがおかしそうに笑う。



「本物のキスは、こういうのだよ」



何も言えない。


黙っていると、喜多嶋さんは私の額をぴん、と弾いた。



「追加レッスンだ」



胸の奥のほうが、きゅう、と苦しくなった。



「………これもレッスンの一環だったんですか」



泣きそうな声になってしまった。



喜多嶋さんが意表を突かれたように目を丸くする。


あ、この顔、好きだな。

こんな時でも、そんな呑気なことを思ってしまう自分の能天気さがおかしい。



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