29歳、処女。
まさか、と思った。

ほんの少し、心の片隅で、少しだけ期待してしまっていたけど、そんなわけないと思っていたのに。



「ほんっと鈍いな、お前は。この俺に何年も前から惚れられてるのに、これっぽっちも気づいてないとか、生意気にもほどがある」


「え、何年も前から?」


「そうだよ。だってお前、ほっとけないから。はらはらしながら見てたら、いつの間にか、目、離せなくなってた」



まさか、いつも口うるさく私を叱っていたのは、そういうことだったのか。


そう思ったらおかしくなって、笑いがこみあげてきた。



「おいこら雛子。なに笑ってる」


「………だって、なんか、小学生の男の子みたいな」


「あ? 馬鹿にしてんのか」



喜多嶋さんが舌うちをして私の頭をわしわしとかきまぜた。



「あっ、もう、せっかくセットしてるのに」


「うるさい。もうどうでもいいんだよ、髪型なんて」


「ええ?」


「つうか、服も髪も化粧も、昔通りでいい」


「なんで? せっかく生まれ変わったのに」


「いいんだよ、生まれ戻れよ」


「なんですか、生まれ戻るって」


「他の男に目え付けられたら困るからな。この格好は、今日限りで終わり。お前は今まで通りガード固い格好してろ」


「………もしかしてそれ、独占欲ってやつですか」



訊ねると、喜多嶋さんが「悪いか」とふんぞり返った。



「なんか、意外です。喜多嶋さんが独占欲とか」



そう言いながら、胸が早鐘をうつ。


喜多嶋さんにそんなふうに思ってもらえるなんて。



嬉しくて笑いが止まらなくなった。



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