浅葱の桜



沖田さんの冷たい手が私の煤けた頬を滑り背中に伸びる。



「や、沖田さんーーーー!」



ヒョイっと抱えあげられて外に出ようとする。


駄目、私は外に出られないのに。



「沖田さん、下ろしーーーー」



今さっきの弾かれるような痛みを思い出して目を閉じるものの衝撃は一向に訪れない。



「あ、れ?」



おかしいな。火事に巻き込まれて焼けてしまったのだろうか。


鳴り響く鐘の音に耳を傾けると辺りの様子に目を疑った。


辺り一面に炎が広がっている。



「おおおお、沖田さん! この惨状はどういう事ですか!?」

「延焼してるんだよ。ったく、一月前に防いだはずの事が現実味を帯びてきてるよ……」



それって、京の町が炎に包まれるということだよね。



どうしよう。



「ここまで広がったら俺らには止める術はない」




そんな……。


この炎は私を殺すために用意されたもの。そのせいで多くの人の命を奪う結果になってしまったなんて……。


潤み出す視界。涙をこぼさないようにと目を開いていると沖田さんが急に足をとめた。



「沖田さ」

「顔、あげないで」



見ないほうがいいから。そう囁かれたものの、早鐘を打つ鼓動に逆らえない。


嫌な予感がする。


頭を抑えようとした沖田さんの手を避けるようにして顔を上げた。




「っ!」



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