夏の嵐と笑わない向日葵
「お手洗いは、ここ…」
あたしは嵐君に部屋を案内した。
それで気づく、この家は一人で住むにはやっぱり広すぎる。
「部屋は、おばあちゃんの部屋が空いてるから」
そうして襖を開けると、ほのかにおばあちゃんの匂いがした気がした。
「雅子ばあちゃん、相変わらず本が好きなんだな」
嵐君は、おばあちゃんの部屋にある本の山を見て苦笑いを浮かべる。
「杏ばあちゃんと昔、小説家目指してたんだってよ」
「嵐君は……おばあちゃんの事、よく知ってるんだね」
あたしは……おばあちゃんの事を全然知らない。
大好きな人で、一緒にいた時間も決して短いわけではなかったけど、あたしはおばあちゃんの事を、よく知らなかった。
「向日葵の方が詳しいだろ?」
「あたしは……おばあちゃんの事、知ろうともしなかったから…」
あの時のあたしは、ボロボロだった。
生きることでさえ精一杯で、おばあちゃんがいなければ、あたしは壊れてしまっていたのだと思う。